生きる意味を追い、愛を歌う!カリスマ「尾崎豊」

尾崎豊

この名を聞いて思い浮かべる印象は世代によって大きく違い、立場によっては「敵視」する向きもありました。若い方にとってはただの”懐メロシンガー”以上のものは無いのかも知れません。

反逆、反抗の教祖、10代のカリスマといった言われ方をよくされます。しかし、これは反抗されていると感じていた大人サイド(メディア)が付けたキャッチフレーズ。

当の本人は、ただ純粋にその時に感じていた想いを音に乗せて表現していただけ、だったのではないでしょうか。彼の音楽人としての根底にあるものは「人生」と「」。間違いなくこの2つ。シンプルでありながら深すぎるテーマ。

脚色することなく吐露されている言葉が綴られた作品たち。時に優しく、時に痛々しく。有名な曲はもちろん、個人的に愛すべき曲たちもご紹介していきたいと思います。

※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。

尾崎豊 Yutaka Ozaki

プロフィール

■パーソナルデータ
・生年月日 1965年11月29日
・出身 東京都練馬区
・死没 1992年4月25日

■略歴
・1982年 CBSソニーのオーディション合格
・1983年 メジャーデビュー
・1984年 青山学院高等部 退学
・1984年 日比谷野外音楽堂でのライブ中、照明台から飛び降り左足骨折
・1987年 覚せい剤取締法違反で逮捕
・1989年 長男、尾崎裕哉誕生
・1992年 死没

1980年前後は今では考えられない程、中学校、高校は”荒れて”おり、生徒同士のみならず、教師に対しての暴力行為も横行していました。尾崎もその渦中に学生生活を送っており、何かしら思う事、影響を受けたのは確かでしょう。

特に覚せい剤取締法違反で逮捕されてから、彼の人生は加速度を増し、結果短くも激動の人生を駆け抜ける事となります。1992年に26歳という若さで他界。

歌詞

尾崎に対する評価は、彼の言葉に共感できるか否かで180度変わると思います。攻撃的で過激なものは確かにあり、有名曲はそういう歌詞が乗っているものが多いです。しかし、そういったある種「反抗の象徴」とされる歌というのは、ほんの数曲しかなく、その一面をもって「それが彼の全てである」というイメージを持たれるのは残念で仕方ない。

作品ごとにその時々の心情が反映されており、尾崎が見ているものや思っていることが割と素直に現れています。人生、愛、夢、真実、存在、孤独、それらと真正面から向き合い、己の全てをさらけ出しています。心の内を表現するための「自分の言葉」を持っていて、単純な言葉の並びや安易な比喩はほぼ無し。誰もが心の奥底に抱えながらも上手く言葉に出来ない複雑な感情を、尾崎は「ストレート」に表現出来ます。

ただ全てがそうではなく、書かれている言葉を素直に理解しようとしても決して紐解けない難解すぎる歌詞も存在します。部分部分を拾って楽しむか、想像力を働かして謎解きするかの二択(笑)。

表現力

尾崎の魅力は言葉だけではなくその歌唱力にもあります。抜群に上手い、という訳ではありませんが、聴き手を圧倒する”何か”を感じます。更に彼の歌声と相まって言い知れぬ説得力があります。

そういった既に他者とは違う武器を持っていながら、彼の歌声は様々表情を変えてみせます。この「声の表情を変える」という技術は一流のボーカリストでも中々出来るものではありません。ロックにはロックの、バラードにはバラードの「歌い方をする」事とは根本的に違います。

大袈裟に言ってしまえば、尾崎は1曲ごとに違う表現をしています。というより、言葉ごとに声色を変化させてる感じです。意識して出来るものではないので自然に行っているんでしょう。

それは自分の生み出した言葉を大切にし、その言葉を伝え届けたいという思いの強さがあるからこそ可能な「表現力」。尾崎のそれは時に優しく、甘く、切なく、儚く、脆く、強く、熱く・・・。

この曲を聴くべし!

彼の死後発売されたベスト盤が何枚かありますが、私は一枚も買ってません。理由は単純なもので、選曲が微妙すぎる。そして何より、各スタジオアルバムそれぞれが一つの作品として出来上がってしまってる。彼の作品の場合は特にそう感じます。

楽曲数自体多くありませんので、下記の作品で尾崎はコンプリート出来ると思います。紹介曲を出来るだけ削る方向で努力致しますが、たぶん最長記録を更新出来そうです(笑)。

十七歳の地図 (1983)

尾崎豊が17歳の時に制作、レコーディングされたデビュー作。作詞、作曲は全て本人によるものですが、当時のプロデューサー須藤晃氏の存在が無ければ生まれなかったアルバム。それだけでなく、須藤氏がいなければ尾崎豊というアーティストが誕生する事は無かったかも知れない。

今改めて聴き返すと若さ故の粗さは確かにありますが、各楽曲パワーがあり、とてつもない輝きを放っています。使用されているコードも進行も簡単なものなんですが、常人には作れない曲に仕上げられている辺り、凄いとしか言いようがありません。個人的に大好きな作品ですし、名盤といっても良いでしょう。


■街の風景
先行きの見えない不安や決意、生まれたての音楽人としての彼の心情が現れている気がします。歌詞の中に「夢くず」という言葉が使われているのですが、自由に言葉を作っていいんだ、ということを教えてくれた曲です。

■I Love You
ご存知、超有名なバラード。君が好きだの、あ~だこ~だという単純な曲ではありません。I Love Youという気持ちをハッキリ表現しながら、脆く今にも崩れそうな「はかなさ」が漂っています。バラードらしい小綺麗な言葉を使わないからこそ伝わるリアルさ。「きしむベッド」と表現した後の「優しさを持ちより」という言葉の並び、素晴らしい作詞力ですね。

■ハイスクールRock’n’ Roll
学生生活の中、誰もが一度は感じるであろう事をストレートに歌っています。満員電車の通学って確かに苦痛だったなぁ、なんて振り返る10代は遥か昔になってしまった(笑)。曲のテンポからするとかなりの歌詞が詰め込まれていますが、メロディのふわりとマッチしており、歌えると結構楽しい。

■15の夜
どの世代の大人かは不明だが、とにかく大人が嫌いな曲その一。割と過激な歌詞だとは思いますが、中学時代にちょっとやんちゃしてた人にはビンゴな内容。反抗期、背伸び心、そういったものが複雑に絡みもがいてしまう年頃。包み隠さぬ歌詞が共感と反感どちらをも生んだ尾崎の代表曲。「自由になれた気がした」という表現がリアル過ぎます。

■十七歳の地図
大量に言いたいことが詰め込まれている曲。反抗的に見える歌詞がありますが、前文の「少女」のくだりからの流れを考えると全然そういうことじゃないのが分かります。3番?では大人の事、親の事を少しずつ分かり始めたという歌詞が綴られており、「半分大人」という言葉が”まさしく”という感じです。意外にも前向き系の歌です。

■OH MY LITTLE GIRL
尾崎の歌唱力、表現力を堪能できる良バラード。起承転結がハッキリと分かる王道な構成。ストレートなメロディと評される事が多いですが、彼の歌声が乗るとそんな単純には語れないと思います。世間で注目されたのは彼の死後、テレビドラマの主題歌に使用されてから。ファンからしてみれば”何を今更”と思う反面、嬉しさも間違いなくありました。

■傷つけた人々へ
このアルバムの中で最も好きな曲かも知れない。一般的に抱かれる尾崎のイメージが先行していると、インパクト的なものはなく地味な曲扱いされそう。メロディがとても優しく、歌唱には心が乗っています。尾崎の持つ丸く柔らかな部分を表現した曲ってホント最高で、私はソコが一番好きなんですよね。

■僕が僕であるために
この曲も後出しタイアップで世に広まりました。尾崎のある種攻撃的な一面のみを全てと捉え、見向きもされてこなかった名曲たちが次々ピックアップされることに、当時は嬉しさ半分怒り半分というのがファンの本当の心情だったと思います。


尾崎は「自分と世界」の対比をよく使います。世界、世間、社会といった大きなものを「街」と表現している歌詞が多くあります。この曲のみならず、今作中でも多く使用されており、見えない壁であったり、恐怖や疑問、彼が常に抱えていた孤独感、といったものを窺えます。

今作「十七歳の地図」は、たった一度しかない時代、その渦中の10代の持つ純粋な心で作られ歌われた、稀代の名盤だと言えると思います。

回帰線 (1985.3)

尾崎が10代のうちにリリースした2ndアルバム。先行発売され話題となったシングル「卒業」も収録されており、尾崎豊の名を世にしらしめた作品。どうしても「卒業」のインパクトが強く、そういった印象を持たれてしまうのはしょうがないんですが、前作とは違う彼がここに存在しています。


■Scrambling Rock’n’ Roll
尾崎のロックナンバーで代表曲。渋谷のスクランブル交差点を行き交う人間模様を題材に、彼らしい視点を加えた曲。自身を含め、夢や希望を持つ人々を「俺達」「Rock’n’ Roll Band」と比喩しています。夢追い人への尾崎流応援歌。大サビの歌詞「自由になりたくないかい…」の部分は有名で今聴いても熱い。

■Scrap Alley
尾崎の楽曲の中でも、実はあまりない仲間の事を歌った曲。様々な思い出を振り返りつつ、幸せを掴んだ仲間を祝福していますが、自身に投影している感じも受けます。共に過ごした思い出の場所に対しサヨナラと言っていますが、込められている想いはアリガトウなんだと思います。熱い歌です。

■ダンスホール
ある凄惨な事件を受け生まれた曲ですが、視点を変えて書かれています。女性言葉で歌われている箇所がある唯一の曲。制作されたのはデビュー前で、オーディションでも披露。尾崎がよく聞いていたジャクソン・ブラウンの「The Road」とコード進行が同じ。だからこそ、彼のメロディセンスの高さが分かります。

■卒業
尾崎の内面を一方的に発信したものではなく、彼自身の思う部分と、いわゆる”不良”と呼ばれる若者側からの視点を織り交ぜた曲。単純な反社会的な歌ではなく、10代特有のモヤモヤ感、純粋さ故に抱く悩みや疑問を見事に言葉にしています。が、それに気づいたのは私自身大人になってからなので、若人には刺激が強いのは確か。強がってみせたり、愛について真剣に考えたり、共感できた歌詞が大いにあります。

■存在
尾崎にしては珍しく、と言ってはなんですが、明るい曲調の歌でコレ聴くと元気が出ます。特にサビの歌詞「受け止めよう」は魔法の言葉。立ちはだかる現実に上手く行かない事柄、否定するより受け止めよう。そこからまた始めればいい、そんな思考を与えてくれた曲。

■坂の下に見えたあの街に
母親の事、父親の事を想い書かれたものに間違いないでしょう。ハッキリと歌詞にはされていませんが、両親に対する感謝とリスペクトで溢れていて、凄くほっこりする優しい楽曲です。せわしない毎日の中、この曲を聴く度、忘れてはいけない大切な何かを思い出させてくれます。

■群衆の中の猫
尾崎が使用する比喩で多いのは「街」、そして「猫」。「街」は社会や世間などを指している事が多いのですが、愛情を向ける対象、つまり愛しい人に対して「猫」と表現している曲が結構あります。ふらふらと危なげで、守ってあげたくなる、その印象ズバリなこの曲。淡々と語る様な歌い口調で、尾崎だけにしか表現できないものがある屈指のバラード。

■シェリー
確かな名曲。バラード調ですが愛がメインテーマではありません。ひとことで言うと「独白」。シェリー=恋人と連想するのが普通で、それでもいいとは思うのですが、私は少し違う気がします。母のような、神のような、自身の中に在る「全てを知り受け止めてくれるもの」に対して、現実の心の内を吐き出している様に思います。聴く側の捉え方に自由を与えながら、強いメッセージ性を含んだ歌詞、あり得ない…。


1stアルバムからわずか数年しか経っていませんが、多感な10代の視点の変遷が非常に興味深いです。今作では現実社会にも目が向けられており、仕事、家庭といったワードも見られます。

夢や希望という武器で社会に飛び込み立ち向かう。そんな感じの非常に前向きで勇気をもらえる作品だと思います。「卒業」が強烈なので霞んでしまいそうなんですが(-_-;)

壊れた扉から (1985.11)

1985年11月28日発売の3rdアルバム。翌日が尾崎の20歳の誕生日で、10代の内に出すためにギリギリの所で制作されていた模様。そのためか、これまでの様な高い完成度ではありませんね。

単発では良い曲は沢山あるのですが、全体としてのまとまり感みたいなものはいまいち感じられません。後、気になる点があって、何かの予兆かどうなのか、歌詞の中にドラッグという単語が目立ちます…。

個人的にはロックナンバーがイイ感じ。そして伝説のバラードが収録されております。


■路上のルール
アルバムタイトルに込められた想いが、この曲に最も集約されていると思います。ただ、良くも悪くも”音楽的”になっていて、聴きやすい反面、歌詞も流れて行ってしまう感じがします。省略や比喩が沢山あって、尾崎らしからぬ新たな表現を聴けるのはとても美味しいですけど。

■Forget-me-not
何度聴いたか、何度震えたか分からない名バラード。多少ベタなアレンジだとは感じますが、歌い手の持つものが全て出るので歌い上げるのは容易ではありません。しゃがれた声に魂を乗せて歌う、というのが彼の歌唱スタイルではありますが、本格的なバラードではこの曲が初めて。歌えば分かるのですが、歌詞とメロディのマッチングも凄く良いです。忘れな草からついたタイトルも意味が色々重なり合う、真の名曲と言えます。

■彼
尾崎の中に何曲かあるんですが、こういう絶望感漂う歌って好きなんですよねぇ~(笑)。底辺で足掻きながら必死に生きていこうとする、ドラマや映画のような映像が浮かんでくる楽曲。落ち込んでる時に聴くと感情移入しやすく、次への一歩を与えてくれます。この曲では最後の3文の詞が凄くイイ!

■Freeze Moon
詰め込まれた歌詞、自由度の高いメロディ、語る様な口調、魂の叫び。ファンにはたまらないこれぞ尾崎ロック。ノリがよくライブでは映える曲で、特にサビの「oh oh…」の部分では拳を振り上げたくなる衝動にかられます。ただ最後の方の「何もかもが違う」や、語り叫ぶ所は好みと賛否が別れそう。

■ドーナツ・ショップ
非常に優しいメロディと柔らかい歌声が心地よい曲。ドーナツ・ショップという分かり易いタイトルに似合わず、内容は中々に深い。素直に受け止めるのは難しい歌詞ですね。言葉足らずな部分もありますし、1番や2番自体が何らかを比喩しているかもしれません。「探し続けている」ものは真実なのか?気になる方は聴いてみて(笑)。

誰かのクラクション
淡々と進行し、劇的ではなく自然に変遷するメロディが凄く良い感じ。歌詞が沢山詰め込まれているのは珍しくはないですが、ちょっと部分部分を切り取り過ぎている感じがして、正直よく分からない(-_-;)。素直に、聞こえてくる歌声とメロディとそこにある詞を楽しむのがいいかな。


今作は、これまでより”人生”というものに向き合っている内容となっていると思います。社会に対しての否定や疑問はなりを潜め、愛や夢、真実と言ったものを語り、受け止めた現実の中での自分の在り様を表現しているように感じます。

自身の脆さや弱さにフォーカスしているふしは見られますが、包み隠さず心の声をさらけ出しているので、尾崎らしさは失われていない作品となっております。

太陽の破片 (1988.6)

ベスト盤やライブ盤以外では収録されることのなかったシングル曲。このジャケット写真は崇高で、美しさすら感じます。尾崎がテレビ出演(夜のヒットスタジオ)で披露した唯一の曲でもあります。

当時この歌にハマり過ぎて、ほぼ毎日のように聴き、歌いまくっていました。客観視すると”暗い歌”なんでしょうけど、ジャケ写の尾崎の様に、一筋の光に手を伸ばしているその姿、その心情を自分に投影し歌詞を飲み込む事で、どの歌からも感じたことの無い心の深い部分での共感を得られました。

失望と戦う、絶望と戦う、誰もが経験する痛みをこんな風に表現できるのは彼だからこそ。色んな解釈が出来ると思いますが、離れざるを得ない愛しい人に向けられた歌だと感じます。最後の方で本音をさらけ出しているのがグッと来る!

街路樹 (1988.9)

無期限活動休止、渡米、レコード会社移籍、体調不良、逮捕、結婚と、この頃の尾崎はまさに激動の渦の中にいたと言えます。このアルバム「街路樹」も難産で、何度も発売延期を繰り返しながら何とかリリースにこぎ着け発売に至りました。

何故このようになったのかは明らかで、間違いなく「人間関係」でしょう。これまで様々な形で支えてくれた須藤晃氏と離れたことが大きな要因の一つであったと思います。どのような経緯でそうなったのかは知りませんが、この時期の尾崎の人生は無駄だったのか、それを考えながら本作を聴いてみるのも面白いかも知れませんね。

新レーベルから発売された唯一のアルバムとなります。


■核(CORE)
先行シングル曲。9分とめっちゃ長いです(笑)。元々は「反核」というイベント向けに制作された曲で、歌詞を変えシングル発売、本作に収録。その歌詞の内容からは強烈な孤独が感じられ、愛しかないといったものになっており、この時期の彼の心情が確実に現れています。パフォーマンスもあまりよろしくありませんが、後の名曲の土台となったであろう貴重な長曲。

■時
サビのメロディラインが印象的で耳に残りやすい。コーラスではなく、ダブリングでボーカルを重ねているのも尾崎の曲の中では希少です。他に思い当たるのは「失くした1/2」くらいかな、たぶん(笑)。

■遠い空
シングル「太陽の破片」のカップリングソング。ここまで明るい曲は尾崎史上初ではないでしょうか。ストレートでライトな歌詞、シンプルなメロディラインと構成、歌としてのバランスが良く非常に聴きやすい。当時私の周りでも評判が良く、尾崎ファンでなくとも素直に良いと受け入れられていた曲です。彼の新たな側面を垣間見る事が出来るオススメの曲。

■理由
ピアノとストリングスが気持ちいいアレンジ。非常に音楽的であり挑戦的な楽曲。尾崎の作品の中で最も言葉数が少なく、ゆったりと歌われているのが特徴。音数が少なくても尾崎節は健在です。

■街路樹
アルバムタイトル曲。購入当初はこればっか聴いてました。素直に綴られた歌詞と、素晴らしいメロディ。スケールの大きな最後のコーラスアレンジは、映画のエンドロールが見えるかのようです。サビの歌詞「足音に降りそそぐ心もよう」という表現にはただただ驚くばかり。この部分だけで色んな情景が浮かんできます。音楽家として上手く行っていない時期でも、こういった楽曲を生み出せるのは流石ですねぇ~。


今作にも一貫したテーマみたいなものは感じられませんが、まぁ仕方ないですね。後、レコード会社移籍に伴うスタッフ変更がモロ音に影響しています。音色、アレンジ、ミックス、マスタリング、全てにおいて個人的には残念な点がちらほらあります。

アルバムタイトルソングとなった「街路樹」が生まれなければ、一体どんなアルバムになっていたのか・・・。考えるだけでも恐ろしい。構想頓挫していた可能性も高い。

誕生 (1990)

尾崎豊最初で最後の2枚組作品。そして名盤

前年に産まれた自身の子、尾崎裕哉の出生から書かれた曲「誕生」がアルバムタイトル。そんな裕哉君も最近表舞台に立ち、その歌声が話題になっています。私も初めて聴いた時は泣いちゃいました。父親と似た声帯を持ち、歌唱力もあるというのは奇跡ですね。

唯一無二の存在と同じ道を歩み歌うという事は、比較され続けるという宿命を受け入れ、強い覚悟を持っているハズです。だからこそ、裕哉君には自身のスタイルを作り磨き上げ、良い歌を沢山残してもらいたいですね。

それでは、この名盤から多くのオススメ曲を!

Disc.1

■LOVE WAY
らしさ全開のロックナンバー。詰め込まれた歌詞を早口言葉のように歌っているのが話題になりました。前作「街路樹」よりも安定した歌唱を今作では聴けますが、その一曲目としてインパクトは抜群です。「共同条理の原理の嘘」という歌詞が大好きなんですが、難しい文だ(笑)。

■黄昏ゆく街で
どこか寂し気で物憂げな、タイトル通り哀愁漂う曲。劇的なメロディ展開はありませんが、沢山の言葉が淡々と語られ、小説を読んでいるような味わいがあります。今作では多くの外国人プレーヤーをバックに迎え、良い感じで音がブラッシュアップされていると感じます。この曲も然りで、ガットギターが堪りません。傍に在る愛に寄り添いながらも、何かが欠けている、そんな歌。激ススメ!

■ロザーナ
明るいメジャー進行でありながら、内容は別れの歌。シェリーに続く名前系タイトルですが、またロザーナとはセンスありますよね~。これまで二人が過ごしてきた日々を振り返りつつ、悲しい想いが綴られています。失恋ソングという事で、個人的にも思い入れがありますが、単純に良い曲です。

■銃声の証明
壊れた扉から収録の「彼」に近い作品。底辺で生きるある男の物語。10代の頃に制作されたものとは違う過激さがあります。気軽には扱えない題材である「テロリスト」の視点で書かれています。1番はドラマの様な描写なのですが、2番からその様相が変化します。尾崎自身の人生経験を加味し、壮大な比喩を含んでいると感じます。特にラストの「生きていることに罪を感じることなく生きる人々」が何を意味しているのか、深いですね。

■LONELY ROSE
「黄昏ゆく街で」と似た構成で大好物なんですが、コチラには愛しさと優しさが溢れています。誰かを好きになり、幸せだと心から感じる時期のその胸の暖かさ、この歌を聴く度に思い出します。この曲の中で最もしびれる部分は”大サビ”。大サビというには長すぎるんですが、それがイイんですよ。ボーカリスト尾崎豊の表現力も詰まっていて、間違いなくオススメ!

■置き去りの愛
僅かな言葉でストレートに書かれている歌詞。考える必要なくスッと心に入ってきます。特別な条件下の恋愛を描いているのではなく、誰もが共感できる別れと後悔の歌。「LONELY ROSE」と比べてみると分かり易いんですが、歌い方、表現の仕方が違います。こちらは重く歌われていて、楽曲の雰囲気を作り上げています。

■COOKIE
尾崎の中でもメジャーな曲。サビの極々当たり前な日常会話的な優しい歌詞と、それ以外のメッセージ性の強い歌詞とのギャップがリアルさをより高めています。今回のアルバム収録曲は長い歌詞が多いのですが、言葉や想いが次から次へと溢れ出る状態にあったのではないかと想像します。単調な言葉の並びやありふれた表現なく、レベルの高い詞を何曲にも渡り乗せることが出来るとは、もうただ、素晴らしい。

■永遠の胸
7分46秒もある大作その1。尾崎豊という一人の人間が探し求めていたもの、その答えに辿り着いたとも取れる集大成的な楽曲です。新しい命の誕生が彼の心に灯した輝きは、とてつもなく大きなものだったと容易に想像できます。メッセージ性がありながら心に余裕を感じられる優しい曲が今作には多くあります。この曲も人生や愛、真実といったものについて書かれていますが、向けられている言葉の対象が”愛する人”ではなく、”愛すべき者たち”だと分かります。最後の文「僕はいつでもここにいるから、涙溢れて何も見えなくても」に現れていますね。この曲の中でいつ聴いても鳥肌なのは、静かなセリフからの「何故生まれてきたの」の叫び。そこにある魂に震える。

Disc.2

■レガリテート
Aメロ、Bメロの簡単な構成なんですが、今までには無かったアレンジで妙に中毒性があります。イントロのギターフレーズがこの曲のメインメロディで印象深く残りますが、サウンド自体もグッドです。この曲のテーマは愛ですが、単なる惚れた腫れたの話ではないですね。やっぱ我が子を指しているんではないかな。

■虹
サックスの入りが堪んない!雨が上がって虹が架かる、その映像がしっかり浮かびます。ちなみに楽曲終わりにもソロパートがあり、そっちもええよ(笑)。歌詞は少な目でゆったりと優しく歌われています。僕、おいら、君、おまえ、と一人称が混在しているのが気になります。それぞれ違う人物なのか、人じゃないものに対する比喩なのか、深く考える必要はないのか(笑)。

■音のない部屋
尾崎のバラード調の曲は鉄板だと改めて感じさせてくれます。曲名も秀逸で「音のない」という言葉だけで色んな情景を思わせてくれます。何もない、誰もいない、時が止まった、そういう少し寂しい印象を受けますが、歌詞から想像するにそのどれとも違い、街のせわしなさや雑音、現実を取り囲む”不純物”のない静かな二人の暮らしを表しているのだと思います。余韻が残る様な楽曲の絞め方も、私の大好きなパターン。

■風の迷路
尾崎、明るいメロディを作るようになったな、と感じるのは錯覚ではないでしょう。特に今作ではそういった軽快な曲が多く収録されていて、作品としてのバランスは凄く良いですね。ただ詞の内容そこは尾崎、生活の中に付きまとう明日への不安や迷いについて書かれています。

■きっと忘れない
タイトルからは想像し難い誕生日の歌。尖ったものなどない物凄く優しい気持ち溢れる名曲。彼の言葉一つ一つの表現が”オシャレ”で、名言が詰まっています。「生まれてきた喜びに君が包まれるように」「探している優しさに君が包まれるように」「毎日はささやかな君へのプレゼント」等々、心の芯から暖かくなるワードが満載。辛い時もあっただろうし、大変な事もあるだろうけど、君なら大丈夫さ!

■MARRIAGE
誕生日に続きプロポーズの歌、人生の黄金のコンボ。10代の頃の荒々しく、痛い程純粋な曲ももちろん好きですが、経験無くして決して書くことの出来ないこの愛の歌。昔はただ単純に良い曲という印象だけのものが、今振り返り聴いてみると、好きとかそんな感情よりも、彼がここに辿り着いてくれたという喜びの方が大きい不思議。「終わりのない優しさの始まり」、自分には訪れるのだろうか( ;∀;)

■誕生
2枚組全20曲の最後を飾る、タイトルチューンで9分55秒ある大作その2。「永遠の胸」よりもアップテンポでロック調。うがった見方など必要ない我が子の誕生に際し作られた楽曲。自身の人生を赤裸々に告白している膨大な歌詞、初めは脚色ある内容が含まれていると思っていましたが、ほぼ本当の事のようです。歌詞の中には非常に生々しく痛々しい箇所もあるのですが、尾崎が我が子に伝えたかった事は「人生」について。「生きる意味」について自分の辿って来た道と想いの変遷をさらけ出し、最後のサビ以降にメッセージを残しています。
セリフの意味は一見不可解に思えるかも知れませんが、我が子が5歳、10歳、20歳と成長して行くその時々に感じる孤独や不安、それに対し何か、或いは誰かに救いを求める姿は間違いじゃない、人は弱いものなんだ、そう個人的には解釈しています。自分と同じような悩みを抱えてしまった時のため、先々の事を思い我が子に送った歌だとしたら、自身の早すぎる死を少なからず予期していた事になり、何とも言えないところではあります…。


CBSソニーに復帰し、立場は変われど再び須藤晃氏とタッグを組み作られた本作。尾崎が20歳を超え、本格的に制作されたアルバムですが、それはもう死ぬほど聴きまくりました!

反抗?反逆?そんなちんけな評価では語れない楽曲たちで溢れています。大人になった尾崎、と言ってしまうのは何だか抵抗がありますが、彼の音楽性の指針となった・・・そう将来言われていたかも知れない作品だと思います。

放熱への証 (1992)

尾崎豊6枚目にして最後のスタジオアルバム。26歳という若さで他界、死の直前に完成し、死後発売された彼の遺作。前作「誕生」で新たな方向性を感じていただけに、彼の新たな音を聴けなくなるというのは、心の底から残念でなりませんでした。

日本音楽界にとって大きな損失という言われ方もされ、大袈裟に感じた方もいると思いますが、完全なる「個」を備えたアーティストって実は中々いない。客観視しても、その評価には頷けます。

ただ、この頃の尾崎は孤独への道を突き進んでいたように思えます。個人事務所を設立し多忙な日々に身を置き、人間不信からスタッフを総替えしたこともあった模様。さらに最愛の母を失った事から精神的に追い詰められ、音楽家としては遠からず終焉を迎えていたかも知れません。

今作発表の前年には、某有名女優と不倫してる事が発覚しています…。曲ごとに誰に対して向けられた言葉なのか、真実は分かりませんが、包み隠さぬ明らかなものもあります(-_-;)


■汚れた絆
ああ、タイトルも内容も誰とのどういう関係を歌ったのか丸わかりです。オブラートに包むなんてことはしない彼らしいと言えばそうなんでしょうけど。ただそういった背景関係なく聴いてみると、別れの歌としてすんなり入ってきます。ロック調で安定した完成度、ファンじゃない方も聴きやすいと思います。

■自由への扉
今作で最も前向きな曲。8分で刻まれ続けるリズムとメロディは単調ながら何故か癖になります。この曲の最も好きな部分は最後の歌詞にあって、実際何度も勇気づけられました。
「裏切られても信じることから」「奪われても与えることから」「寂しくても分け合うことから」「悲しくても微笑むことから」
いつでもこうあるのは難しい事。だけど忘れてはいけない、私にとっては大切な言葉たち。

■優しい陽射し
曲名にあるように優しい歌。最初は聞き流すような存在だったのですが、少しずつジワジワ個人的ランキングを上げ、気付けば大好きになっていた曲。楽曲の雰囲気を作り上げているコーラスがイイ感じ。目まぐるしく劇的に展開する構成も好きですが、この曲の様に、ただ一つの世界観で最後まで仕上げる作風もホント良いですね。

■贖罪
ズンチャ、ズンチャ♪という軽快なリズムとは裏腹に寂しい曲。歌詞も簡潔にまとめられていますが、言葉の節々から重みを感じます。孤独を安らぎと表現している箇所もあり、これまでとは違う捉え方、視点が見えます。「名もない日々」という表現に自分の存在に対する想いが込められているようで、寂しすぎます。

■ふたつの心
尾崎のバラードの中で、私が最も好きな曲。ピアノ弾き語りから後半盛り上げ型の王道な構成、自身の環境を加味しながらもどストレートな詞、シンプルに仕上げられた曲であるにも関わらず、感動せずにはいられない。彼の歌声が言葉を本物にし、聴いてるものに心が届く、まさにこの曲の内容のように。「何も言わなくても心で通じる」、誰もが求め続け、幻想だと諦めてしまう、そんな究極的な愛について歌われている素晴らしいバラード。

■太陽の瞳
当時の尾崎の心情がもろに現れている曲です。良くも悪くも、音楽に対して嘘は付けないようです。どうしようもない孤独感、何かに縛られている心の内が吐露されています。それでも最後の方には「一人になりたくない…」と本音が漏れているのがツライですね。実はこの曲をチョイスしたのは、キーが低いので低音発声練習の際ウォームアップ代わりによく口ずさんでいた事と、ギターが結構な速弾きをしていてそこが好き、というのが本当の所です。

■Mama, say good-bye
亡き母に捧ぐ曲ですね。尾崎自身が演奏しているブルースハープの音色が神秘的に響いています。語りつくせぬ想いがあるはずですが、言葉を埋め尽くすことはせずシンプルに書かれています。亡き母親に本当に伝えたい全ての心は、最初に述べたブルースハープに込められているのではないかと想像します。


尾崎最後のアルバムは彼の遺作ということで話題を集め、ミリオンセラーを達成しました。内容的にはバラエティに富んでいるとは思いますが、どこか暗い印象がつきまといます。それは尾崎が当時抱えていた「孤独感」が楽曲に大きく反映されているためでしょう。

それでも「優しい陽射し」や「ふたつの心」といった良曲を収めた本作を生み出してくれた彼には、心からありがとうを送りたい。

無題 (1996)

尾崎がデビュー前に制作していたデモ音源集。基本的には彼の弾き語りですが、少し手を加えられアレンジされているようです。若い子は知らないカセットテープによる録音のため、昭和生まれじゃなきゃ違和感感じるのかな?

今回ピックアップする曲は、彼がCBSソニーのオーディションで披露したもの。比較的音源も良好ですし、生々しい演奏から伝わるパワーを是非とも感じてもらいたい。


■もうおまえしか見えない
不純物のないストレートなラブソング。これ最初に聴いたのはテレビの尾崎豊特集だったと記憶しています。オーディションの秘蔵映像ですね。凄く耳に残っていて、これが発売されると知って予約購入しました。何故この歌がアルバムに収録されなかったんだ!と当時回りが皆思う程、純粋に心に響く歌。綺麗な歌声だけじゃなく得も言われぬ説得力があり、彼が特別なものを宿している事は誰が聴いても明らかでしょう。

■町の風景
デビューアルバム「十七歳の地図」に収録されている「街の風景」の原曲。微妙に歌詞が違う所もありますが、この弾き語りバージョンも凄くイイです。この曲耳コピして練習しまくりましたね~。ジャカジャカかき鳴らすのがカッコ良く、アコギ練習に最適ですよ。それにしても、16歳で書けるレベルの曲じゃありませんね。陳腐な表現を借りれば、まさに「原石」です!

■ダンスホール
「回帰線」に収録されている同曲の弾き語りバージョン。このアルペジオも頑張って耳コピし練習しまくりました。というかアコギでまともに練習したのって「町の風景」とこの「ダンスホール」くらいだ(笑)。コチラも歌詞が最後違う部分がありますが、基本そのまま。メリハリの利いた表現と透き通る歌声、今聴いても半端ないですね。歌詞も秀逸で、言葉選びが普通ではなく、特に場の表現が素晴らしいです。→「陽気な色と音楽と煙草の煙にまかれてた」(驚)

まとめ

あ~~~~疲れた(笑)。

尾崎三昧だった一週間あまり、懐かしさや寂しさや色んな感情や己の若かりし日々の匂い等、様々な扉が開き非常に有意義な時間でした。そして、彼への思い入れが強かったことも思い出しました。

改めて聴き返してみると、ホント沢山の新たな発見がありました。あの頃は気付けなかった、各楽曲ごとに尾崎が言わんとしていた本当の心や、隠されていた想いも。まぁあくまで個人的解釈で、ですけど。

長くなるとは踏んでいましたが、過去最長記録更新したか?(笑)。思い入れのある楽曲を紹介していくと、ほぼ全曲になってしまった感があります…。申し訳ございません。

彼に対する世間のイメージはあまりよろしくないんでしょうね、やっぱり。それでも一度是非触れてみてもらいたいアーティストなのは確かです。そして断言します。

尾崎のバラードに外れなし!と。

心の声をまんま吐き出した愛の言葉を彼の歌声が彩る時、本当の美しさが生まれる。

それでは、今回は以上になります。いつも長くてゴメンよ!